右前肢手背の皮膚全層剥離例


 症例はとらちゃん、推定8〜9歳 日本猫(♂)

数日前、外に遊びに行き、帰宅したところ右前肢にケガをしていたとのことで、来院されました。骨露出までいかないものの、写真の様にかなりの範囲で皮膚が剥がれてしまっており、細菌の感染もありそうな状態でした。


 創傷治癒には、段階があることが知られています。とらちゃんの場合、感染によって治癒過程が停止していると考えられました。幸い皮膚が縫合できる程度に残っていたので、全身麻酔下で壊死組織の除去(外科的デブリードマン)を行った後に、皮膚の縫合を行うことを選択しました。縫合を行うことのメリットは、治癒が早められることですが、感染している部分を塞いでしまうので、滲出液や膿の排出(ドレナージ)ができなくなり、治癒の進行が妨げられる恐れがありました。そこで、創部の細菌を採取し、培養同定感受性試験も行いました。


 

 培養同定感受性試験の結果です。3種類の細菌が検出され、耐性を持つ抗生物質にバラツキがありました。

Citrobacter freundii

Enterbacter agglomerans

Staphylococcus aureus

S:効果あり R:効果なし

 

 検査結果が得られるまで、1週間ほどかかりますので、最初は経験的に処方します。アモキシシリンクラブラン酸とオフロキサシンを処方していましたので、細菌感染は抑えられると考えられました。効果の無い抗生剤を処方していた場合は、この結果を元に薬の変更を行います。


 

 縫合終了直後の写真です。なんとか創部を皮膚で覆うことができましたが、赤矢印の部分のパットの色が良くないことと、親指の周辺の皮膚に隙間があることが心配でした。

 手術日の夕方に帰宅し、しばらく経過観察としました。自宅では、抗生剤の服用、エリザベスカラーの着用、消毒薬は使用せず、創部のぬるま湯での洗浄をお願いしました。


 手術後11日目です。親指周辺に肉芽が形成され隙間を埋めてくれました。肉芽が形成されているので炎症期から増殖期に進んだと考えられます。血色が悪かったパットの色も良くなり一安心です。